7 
東海障害者歯科臨床研究会
総会および学術大会の報告




             
大会長から皆様へ

                       第7回東海障害者歯科臨床研究会
                       大 会 長:小島 真一 

 去る7月12日に第7回東海障害者歯科臨床研究会総会および学術大会が名古屋駅の桑山ビル会議室にて開催されました
 
 午前中の認定医研修会は、愛知県コロニーを中心に新生児科として障害児に携わってこられ、現在、名古屋市の重症心障害者施設「ティンクルなごや」の院長 二村先生に「重症心身障害児の病態とその対応」の演題でご講演いただきました。障がい児者と医療・療育として周産期の医療の概略、障がいの発生、母子の絆、家族の絆について詳細なお話を伺うことが出来ました。最後に愛知県における重症心身障害者の現状と今後の展望を説明していただき、歯科関係者にとっても大変有意義な研修内容でした。

 午後は総会の後、愛知県歯科医医師会の理事でもある本多豊彦先生のもと、“いま、体動抑制が必要な患者対応は如何に?-全身麻酔や静脈内鎮静法を取り入れている施設報告から-”のテーマのもと愛知県下で全身麻酔や静脈鎮静法を導入されている3施設の先生にシンポジストとして発表していただきました。名古屋歯科保健医療センターの穂坂一夫先生には移転した北センターの紹介から全身麻酔や静脈鎮静の適応に対する考え方を示していただきました。蒲郡市障がい者歯科診療所の佐藤 厚先生には導入に関わる人間力のお話から行動変容による治療者と全身麻酔チームとの分業制により信頼ある治療を行っていることをお聞きしました。また、一宮市口腔衛生センターの菱川秀樹先生には静脈鎮静法導入の経緯として行政との関わりや大学との連携の重要性をお話いただきました。指定発言者として名古屋歯科保健医療センターのケースワーカー新渡戸満貴先生には患者・家族の思いの代弁者として全身麻酔による治療への不安や思いをお話いただきました。質疑応答では抑制治療に関する論議もありました。最後に玄 景華会長より全身麻酔自体が抑制との考え方もあるので今後検討していかなければならないとの発言をいただき閉会となりました。

 懇親会には62名の多くの先生に参加いただき、交流を深めることが出来ました。今大会は愛知県歯科医会にも後援をいただきました。また多くの皆様のご支援をいただきました。ここに感謝の意を表します。



参加状況



第5回日本障害者歯科学会認定研修会参加人数
 歯科医師:55名
 歯科衛生士:42名
 その他:1名
 合計98名
 (うち同学会認定医40名、認定歯科衛生士:33名)

第7回東海障害者歯科臨床研究会学術大会参加人数
 歯科医師:79名(午前中からの参加者:50名)
 歯科衛生士:49名(午前中からの参加者:36名)
 その他:2名
 合計:130名

参加人数:144名(1日参加87名、午前のみ11名、午後のみ43名)




研究会の風景

午前(10時~11時50分) 日本障害者歯科学会認定研修会

名古屋市重症心身障害児者施設「ティンクルなごや」の運営と今後の展開ー障害児者歯科診療も含めてー
 座長:小島真一先生 
 講師:二村真秀先生(名古屋市心身障害児者施設「ティンクルなごや」室長)




幹事会




午後(13時~15時)総会および学術大会

”いま、体動抑制が必要な患者対応は如何に?ー全身麻酔や静脈内鎮静法を取り入れている施設報告からー”
 座長:本多豊彦先生
 シンポジスト:
   1. 名古屋歯科保健医療センター    穂坂一夫先生
   2. 蒲郡市障がい者歯科診療所     佐藤 厚先生
   3. 一宮市口腔衛生センター      菱川秀樹先生
 コメンテーター:玄景華先生(朝日大学歯学部教授)
 指定発言者:新渡戸満貴先生(名古屋歯科保健医療センター ソーシャルワーカー)





参加者Voice

障がい児・者の後ろにある家族の現状

                                   福嶋歯科         
                                   名古屋歯科保健医療センター
                                   歯科医師 草部 能孝   

 平成27年7月12日(日)、第7回東海障害者歯科臨床研究会 総会及び学術大会に参加させていただきました。
 午前は認定医研修会が開かれ、名古屋市心身障害児者施設ティンクルなごや院長 二村真秀先生に「名古屋市重重症心身障害児者施設ティンクルなごやの運営と今後の展開‐障害児者歯科診療も含めて‐」という演題で御講演頂きました。「ティンクルなごや」は平成25年12月、社会福祉法人むつみ福祉会が指定管理者となり、平成26年4月、開設準備室を立ち上げ準備にあたり、平成27年5月から入所を開始した重症心身障害児者施設です。
 講演は周産期医療や脳性まひの基礎的内容から、新生児に対する母親の愛情や絆の重要性、更には近年注目を集めている「オキシトシン」の話題まで非常に多岐に渡る内容で有意義な時間を過ごすことが出来ました。
 二村先生の講演の中で特に興味深かったのは、施設の基本方針と入居者を取り巻く環境に隔たりがあるという現状です。施設の基本方針は、「公平な施設運営」として、施設利用が必要な方への提供を行いたいが、入居希望者の多くは本人・親の高齢化から在宅介護が困難です。そのため一度施設入居すると、転居又は逝去するまでベッド数が確保が困難です。歯科医師は医療従事者である立場上、障がい児・者の口腔ケアを指導する必要性がありますが、家庭の状況等から口腔ケアにまで手が回らないし、保護者の中には自分の生活で精一杯という声も耳にします。その様な患者や保護者にとっては、医師の「日々の口腔ケアを大切にしましょう」という提言さえも重圧や負担となる可能性があるのです。二村先生が、入所希望者本人の口腔ケアが十分ではない状況を痛感された様に、本来提供されるべき現場に十分な医療サービスが提供出来ていないのが、在宅で管理されている障がい児・者の現状であることを改めて痛感しました。地域で障がい児・者や高齢者を診療するにあたり、私はそのような現状に遭遇した場合には、その患者が地域で埋もれてしまわない様に適切な対処として訪問診療,介護福祉施設への紹介等を行う努力をしています。その際には周囲の家族の負担も配慮するべきと再認識しました。

 午後は学術大会が開かれ、「いま、体動抑制が必要な患者対応は如何に?‐全身麻酔や静脈内鎮静法を取り入れている施設報告から‐」というテーマで3人のパネリストを迎えてシンポジウムが行われました。名古屋歯科保健医療センターでは、4年前の全身麻酔導入及び今年の新センター開設に伴い、全身麻酔及び静脈内鎮静法(Deep Sedation)の件数が飛躍的に伸びています。また、センター診療部長の穂坂一夫先生が導き出されたレディネスに基づいて全身麻酔下の歯科治療対象者を判断されており、全身麻酔は“基本的には1回だけ”で、重要視する点は日々の口腔管理であるとのお話が印象的でした。蒲郡市障がい者歯科診療所は、愛知県郊外の地方小都市という不便性にも関わらず、歯科医師会の熱意ある活動の結果、静脈内鎮静法も導入した診療が可能となったというパネリストの佐藤厚先生のお話が印象的でした。一宮市口腔衛生センターの菱川秀樹先生は、静脈内鎮静法導入に至った経緯を丁寧に解説していただき、その御苦労に感服致しました。
 全ての講演に共通するのは、患者の高齢化とそれに伴う抑制治療の困難性、行動調整や医学管理が極めて困難な患者が増加している現状です。その様な患者に対しては、全身麻酔下の歯科治療も当然ながら必要と考えられますが、往々にしてその背景には家庭での口腔管理が十分に出来なかったためにセンターでの全身麻酔下の歯科治療に至ったという面もあります。その中で指定発言者として参加されていた名古屋歯科保健医療センター医療ソーシャルワーカーの新渡戸満貴先生のお話が非常に興味深く、「全身麻酔で歯科治療を終えた後に、『今日から自宅で歯みがきを頑張って下さい。』と言われても、今まで出来ていなかった事は急には出来ない。」という家族の声がある事です。更に歯科医師が十分に説明を行っても、患者やその家族には全身麻酔下の歯科治療に様々な不安があることです。私も行動調整が困難なため全身麻酔下の歯科治療後に至った患者に対して、検診・口腔ケア時の笑気吸入鎮静法を提案した事例がありましたが、「過去に抑制下で検診は出来ていたのだから抑制下の診療で構わない。検診や口腔内清掃にまで全身麻酔は必要ない。」と家族から強い反対を受けた経験があります。笑気吸入鎮静法で不安視されるのですから、全身麻酔となれば患者や家族の不安が更に増大するのは明らかです。全身麻酔下の歯科治療は準備等も含めて家族の不安や負担になることは事実です。しかしながら、患者や家族に家庭での口腔ケアの不安や負担を軽減させるのが障がい者診療に携わる者の使命と考えており、そのために施行される全身麻酔下の歯科治療は有効な選択肢と考えています。
 障がい児・者患者や家族の持つ全身麻酔への不安や負担の軽減は、今後の障がい者歯科診療従事者の課題であり、そのためには歯科医師、歯科衛生士だけでなく医療ソーシャルワーカーの介入により地域の施設介護職員との医療連携の強化が急務と考えられます。
 そして特に医療従事者は、医師本位の視点だけでなく、その患者家族の現状にも常に目を向ける必要があると痛感し、自身の今後の臨床にも生かすことができればと思いました。

 最後になりましたが、大会長の小島真一先生、準備委員長の本多豊彦先生はじめスタッフの皆様方、大会運営本当にお疲れ様でした。また、このような機会を与えて下さいました東海障害者歯科臨床研究会に改めて深謝致しますとともに、本会の更なる発展を心よりお祈り申し上げます。




参加者Voice

第7回 東海障害者歯科臨床研究会 総会および学術大会に出席して

                                   名古屋市歯科医師会       
                                   名古屋歯科保健医療センター
                                   歯科衛生士 黒田亜美   


 この度、名古屋市重症心身障害児者施設ティンクルなごやの院長である、二村先生の講演、午後からのシンポジウムに出席し、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。

 
重症心身障害児者施設と歯科との連携をとり、歯科衛生士として口腔ケアに介入していきたい思いと、現段階では、重症心身障害児者施設、人口1万人当たりのベッド数が全国一少ないのが愛知県であり、愛知県内の重症心身障害児者施設整備計画が進んでもまだ全国平均には遠く及ばない現実があることも踏まえると、いかにして在宅の重症心身障害児者と歯科との繋がりをもつかが重要であるとも感じました。また、シンポジウムでは全身麻酔・静脈内鎮静法を取り入れている3施設ではどのような基準で全身麻酔・静脈内鎮静法を選択するのか、その後の管理などの現状報告がありました。
 
 報告にありましたように、私の勤務する名古屋歯科保健医療センターでは、2012年より全身麻酔・
静脈内鎮静法による歯科診療を行っております。実際に患者、ご家族の中には歯科治療のために全身麻酔までしないといけないのか。以前は体動抑制で治療できていたのに。など戸惑いのある方や、是非全身麻酔下で治療をしてほしい。という方もみえます。患者、ご家族にとって全身麻酔・静脈内鎮静法という選択肢が増えたことはとても有意義であると考えますが、何よりも重要なのは、患者、ご家族との信頼関係であり、ソーシャルワーカー・歯科医師・歯科衛生士など歯科のみならず、福祉・医療従事者が連携して患者さんと繋がり、継続した口腔ケアの管理をしていくことではないかと思いました。参加させていただき、ありがとうございました。東海障害者歯科臨床研究会のますますのご発展をお祈り申し上げます